平成20年度「天竜区がんばる地域応援事業」
「ふるさと子ども夢学校」で地域活性プロジェクト
〜シンポジウム・指導者養成・プログラム・そして実践〜
2008年11月09日(日)
シンポジウム「ふるさと子ども夢学校」で天竜地域に夢と元気を!
報告
【13:30 司会進行あいさつ 多利野冒険学校代表 小粥康正】
【13:35 あいさつ 天竜区地域振興課 課長 佐藤氏】
天竜区がんばる地域応援事業の協働事業としての取り組み
20の廃校の利活用などを推進したい
人材育成やキャンプが今後、予定されている
【13:40 講演1 時安和行氏】
愛知県東海市在住
中京女子大人文学部児童学科准教授(子どもと自然・教科教育法・遊びの研究)
国立オリンピック記念青少年総合センター、国立青年の家国立赤城青年の家を経て現職。
●講演概要 パワーポイント資料参照
・序
中京女子大学は静岡から通学する学生がいたり、地元の静岡で教育実習をする学生もいて、無縁ではない。
・現代の子どもの状況
(1)負の連鎖
昔は、ふとんをあげる、そうじをする、ふろ掃除をする、雨戸を閉めるなどの仕事があった。今ではそうした仕事がすくない、親は勉強さえしてくれていればいいという感覚。子どもたちは疲れている。やらされることばかりでストレスがたまっている。外で遊ぶことが少なくなり、体が疲れていないので夜更かしをしやすい。室内遊びからはじまって、肥満への負の連鎖はどこかで断ち切らないといけない。都会でも、田舎でも子どもの状況は同じ。みんなでやることが少なくなり、一緒に遊ぶ子どもも少人数で決まったメンバーであることが多い。
小学生の肥満が広がっている。約1割の子どもが肥満、40人のクラスなら4人から5人が肥満で、成人病と診断されている。深夜0時以降に寝る中学生は、平成7年ではほとんどいなかったのに、10年後のデータでは半数近くに急増している。夜明かししているため、朝起きるのが遅くなり、朝食をとらないとだるさを感じることが分かっている。朝食をきちんと食べている子どもは朝から元気。テレビを見る時間が増え、遊ぶ時間も年齢が高くなるほど極端に少なくなる。こうした負の連鎖をどこかで断ち切らないといけない。
体を使って遊ぶことは、運動野の近くにある前頭前野も活性化させる。よく遊ぶことが感情のコントロールなど人間らしい心を育てることが分かっている。
(2)自然体験が減っている
自然体験が少ない親ほど子どもの自然体験が少ないというデータがある。親が自然の中での遊び方を知らないため、自然の中で子どもと遊べない。運動量が少なくなり、ずっと立っていられない、長時間歩くことができないなど運動能力や体力が低下してきている。少なくなってきた体験として、
自然に触れる体験、異年齢・異世代交流体験、自発的活動の体験、社会参加体験・勤労体験、困難を乗り越える体験、基本的生活習慣確立のための体験、二極対立体験(暑い寒い、便利不便など)
がある。
虫を捕まえたり、山登り、キャンプなどの体験は平成10年と17年で比べると10ポイント以上、少なくなっている。自然体験のチャンスである夏休みでも同様の結果が出ている。自然の中での遊びはおのずと、自分からやろうという気持ちにさせる。子どもたちと一緒に親が体験することが求められている。
・自然体験活動の教育的効果
(1)心を育てる
自然体験活動をしている子どもとしていない子どもで、道徳感や責任感を比較すると自然体験のある子どもほど、道徳感や責任感が高いというデータがある。自然体験は、やる気、自信、がまんや責任感、友だちづくり、自己決定、自然への気づきといった効果があり、子どもの成長にとってなくてはならないもの。
(2)科学的裏付け
脳科学者、人類学者、解剖学者がそれぞれ自然体験活動と子どもの成長にとっていかに重要かを語っている。脳科学的には「生の体験を積み重ねる」こと、人類学者的には心の中に緑の中で安らぎを感じるDNAがあること、解剖学者的には自然のおもしろさに気づいた子どもは自発的に遊び、応用力がみにつく。
・国の動向
(1)歴史
昭和50年に国土庁のセカンド・スクール構想、昭和59年に文部省の自然教室推進事業、昭和63年に文部省フロンティアアドベンチャー事業、平成11年全国子どもプランが緊急に3年間実施されることになった。近年では、子どもの重大犯罪が続き、危機感を持っている。法律では、平成13年に学校教育法が改正され、奉仕活動や自然体験活動を推進する方向が打ち出された。平成18年では、教育基本法と学校教育法が改正され、一層、その点が強化された。具体的な政策として、平成14年の豊かな体験活動推進事業が始まり2週間程度の長期型の自然体験が推進。平成19年に、教育再生会議からの提唱を受けて、小学校で1週間程度の自然体験活動の方向性が打ち出された。
(2)現在の取り組み
総務省・文部科学省・農林水産省の合同で「子ども農山漁村交流プロジェクト」が始動、今年度「ふるさと子ども夢学校」とネーミングされて、現在、モデル地区として全国で50地区が選定、事業を進めている。「ふるさと子ども夢学校」に呼応するカタチで文部科学省は青少年体験活動総合プランとして、市町村が申請を行う小学校長期指導者養成事業や小学校自然体験活動プログラム開発事業、意欲を育む自然体験推進事業、多様な場を活用した生活体験推進事業の4つの取り組みを展開している。
・体験活動を取り戻す取組みの事例
(1)山村留学
長野県や山梨県で年間を通じた取組みを行っている。平成14年で110ケ所、780人の小学生が参加、保護者の7割が有効、2割が将来役立つとのアンケート結果を得ている。効果をあげている。
(2)通学合宿
国立妙高青少年の家で合併に伴い、妙高市の全6年生を対象に実施。満足度がほぼ100%という結果を得ている。
(3)武蔵野市のセカンド・スクール
1995年から、長野県や山形県で6泊から9泊の自然体験や共同生活体験を行っている。
(4)兵庫県の自然学校
昭和63年から実施。全県の小学5年生が体験する。教員が2泊ごとに交代して引率している。ここの取り組みが「ふるさと子ども夢学校」のひとつのモデルとなると思われる。
・農林水産省のグリーンツーリズム
背景として、農林水産業の活性化や担い手づくり、食農、健康づくりなどの目的でグリーンツーリズムを推進している。「ふるさと子ども夢学校」はグリーンツーリズムへもつながる事業。
・子ども農山漁村交流プロジェクト「ふるさと子ども夢学校」
1週間ほどの農漁村での体験を行う「ふるさと子ども夢学校」では、今後5年間の間に全国2万3千校での実施をするべく、受け入れ体制の整備と、協議会の整備をすすめる。
・「ふるさと子ども夢学校」の実施に向けて
(1)教員の自然体験への理解
21年度から教員免許が更新制となる。更新するためには、18時間から30時間の更新講習を受けなければならない。この時、自然体験活動や「ふるさと子ども夢学校」についての講習を行うようにできればいい。
(2)「ふるさと子ども夢学校」の地域のサポート
「ふるさと子ども夢学校」は教員だけでは実施できない。受け入れ先もそうだが、自然体験の専門家が必要となる。そのためのネットワークが必要。
質議
Q1 モデル地区での予算はいくらか
A1 各地のモデル事業については把握していない
Q2 小学校の教員をしているが、まったく話題になっていない。教員はどうしたらいいのか分からない。
A2 協議会を作るようになっている。そこと連携して進めることになる。教員が引率することになるが、具体的には地域や学校の実情に応じたカタチになると思う。
【14:20 講演2 大武圭介氏】
富士宮市在住
筑波大学大学院農学研究科修士取得後、オークヴィレッジ森の自然学校、岐阜県立森林文化アカデミーを経て、現在
ホールアース自然学校在職。
●講演概要
・ホールアースの紹介
(1)概要
スタッフは28人、拠点は芝川町の他4ケ所。全国2000ほどある自然学校の草分け的存在。民間の自然学校では国内最大。1982年からスタートし、当初は移動動物だった。1987年団体名をホールアース自然学校に改称、年間6万人の参加者があり、これまで2千万人を受け入れてきた。
1998年 ホールアース自然学校沖縄校(名護)開校。 富士山本校(西富士・芝川町)を建設 2000年 環境庁直轄施設「田貫湖ふれあい自然塾」がオープンし、管理を委託されている。代表は(社)日本環境教育フォーラム、日本エコツーリズム協会の理事を務めている。自然体験活動だけでなく、エコツーリズム、地域振興、人材育成、国際協力、災害救援、企業との連携などの諸分野を自然学校として開拓し、新しい業態としての自然学校を市場に出し続けている。
2000年より、行政や企業とのタイアップのため、NPO法人ホールアース研究所を設立。今年、10月には旅行業許可を取得し、エコツアーの企画・実施を行えるようになった。修学旅行の受け入れは年間400校、25,000人になる。昨年度、環境省「エコツーリズム大賞」を受賞した。
(2)成功例
2005年度より、「ろうきん森の学校」を開始。労働金庫連合会の50周年記念社会貢献事業として、NPO法人ホールアース研究所が主管となって行うもの。「ろうきん森の学校」は、「日本の里山再生」をテーマに、全国3地区で 森・人・地域を育てる10年間のプロジェクト。毎月、3地区でプログラムを実施している。10年間で50万人の参加を見込んでいる。
・ ホールアースとして「ふるさと夢学校」に向けた取組み
(1)協議会の機能
最近、ふじ食農体験交流協議会を立ち上げた。「ふるさと夢学校」を地域で実現するためには協議会の設立が求められている。協議会をどこにつくるかが課題。協議会には事務局機能として、窓口機能・旅行代理機能・PR機能・コーディネート機能・プログラムデザイン機能などが必要。行政主導ではなく、民間主導で行う必要がある。地域の宝物を発掘し、プログラム化していく。地域でバラバラにやっていることをネットワーク化することで、地域のポテンシャルを高めることができる。
これまでの実績や経験から、何ができるのか、受け入れ人数、費用などの一覧表を作成し、受け入れをスムーズにしていく。
「ふるさと夢学校」では、民泊・民宿での宿泊が求められているので、民泊・民宿開業のサポートも必要になっている。
(2)ポイント
4つの確かなこと
1.問い合わせ窓口
誰に聞いたらいいのかはっきりしていること
2.時間・最大受け入れ人数・料金
全体の行程やクラスごとでの行動を考慮したわかりやすい一覧表
3.雨天時の代替プログラム
天候に関わらずプログラムを実施できること
4.安全対策
万全の対策と万が一の対応をしておく
【15:05 講演3 山本薫久氏】山本薫久氏
豊田市足助地区在住
40歳代半ば小学校の教員を退職、「田舎で自然と共にくらしたい」と足助町で自然農法の農業をはじめる。
NPO法人都市と農村交流スローライフセンター代表。「スローライフ森林学校」を開催し、現在「豊田森林学校」事務局。
●講演概要
・山の問題は都市がつくった。
都市の負の問題を山村で解決しようとしている。これまで、いろいろと協力してきたが、もう都市のために、何かやるのはうんざりしている。都市のために山村を利用するのはやめてほしい。やりたくない。
※ポスターのコピーを引用しながら
「子どもたちの声が山里から聞こえなくなってどれくらいたつのだろう。」
本当に、子どもの数は減った。廃校になった小学校や中学校はほとんど山間部。
「子どもたちは街へ出て行き、街は豊かになった。しかし、一方で山里は取り残されていった。」
企業が雇用のために、山村から人手を集めた。山が荒廃したのは企業にも責任がある。
「時代は進み、山里は過疎地といわれ 地区の学校は惜しまれながら閉鎖されていった。」
足助に来て3年間は林業をやった。国産材の価格は下落したまま40年間も変わっていない。昔は3人雇えたが今は0.3人。ひとりも雇えない。林業で食っていた山村の経済が崩壊して、コミュニティも崩壊している。山、田、畑、道が荒れていくのが止まらない。
「誰がこんなにしたのだろう。誰が望んだのだろう。」
本当に、誰が望んだのか。誰も望んでいない。
「今こそ子ども達の声を呼び戻して、天竜に夢と元気を取り戻そう。まだ終わってはいない。」
私はそれなら、話したいと思った。だから、今日、来た。
・仕組みとしての交流事業
どうして「山を維持しないといけないのか」を伝えることが大切。まちは山に支えられている。住民がつくりあげている行政は非営利のNPOと同じ。本来は行政が住民のための政策や事業を行うべき。ところがそうなっていない。行政は森の実態が把握できていない。森林組合も同じ。森の健康診断で実態把握をした。その結果、人工林の約7割が災害につながる危険のある荒廃した森だった。2000年の東海豪雨で河川が氾濫し、大きな被害を出した。「沢抜け」と呼ばれる土砂崩落が起きて、ダムは流木で埋め尽された。これは森林の荒廃が原因だった。
対策の必要性を認識した豊田市で、森の健康診断を始める。ボランティアが2000人も組織され、市民が森へ入り、森林整備の方向性を示すことができた。これが森林行政を動かしていった。各地域で森づくり会議を開催し、森林所有者とともにゾーニングを行い、森林整備の気運が高まっていった。豊田市では、平成6年から日本で初めて「水道水源基金」を創設、平成12年からはこの基金を使った森林整備事業も始まっている。
水系のネットワークづくりとして矢作川水系森林ボランティア協議会がつくられる。農も水が不可欠。森づくりと統一的に行うことが必要だった。持続可能な農を目指し、自然農や新エネルギーへの取り組み、農村体験の企画を打ち、セカンド・スクールを教育委員会と農政課で取り組むなどの活動が展開されている。
山とまちをつなぎ、すべてを統一的に推進するための「司令塔」と自治的な機能を山村が持つことが課題となっている。また、山村に必要なこと、やらなければならないことを交流プログラムとし、作業を手伝ってもらう企画とすること。お客さん扱いはしない。
・ストーリーをつくる
健康診断に参加した市民は、意識も変わるし、行動したいひともいる。森づくりだけが興味や関心の対象ではない。一般市民を対象に森林塾を開催したところ、その後参加者たちが自主的に集まり、森林ボランティアも誕生している。現在、7つのグループがあり、それぞれが独自の方針で活動を実施。山のことを学び、山作業の技術を高めている。
NPO法人「都市と農山村交流スローライフセンター」では、雑木林観察会、スローライフ森林学校、ログ・スクール、素人のための家づくり実践講習会、足助炭やき塾などの活動がある。炭焼きはプロ級のひとが2人も誕生した。
このように受け皿を作っておくことで、市民参加が保証されていくし、連携もできる。そうした取り組みが山村を活性化させていくと思う。今、足助の山里では、サラリーマンをしながらアイガモ農法で米を作っている人や、Iターンで木こりになった人、定年退職後に炭焼きのプロをめざす人など、さまざまな人たちが集まってきている。
・役割
企業は口を出さずに支援をする。行政はやるべきことをやる。山村は専門家に思いをぶつける。行政や援助に頼るのではなく、山村が主体とならなければ再生はない。
・山村再生のポイント
1.本当にやりたいこと(本気さ)
本当に情熱を持ってやれるかどうかにかかっている。
2.自然とのかかわり
自然とひととの共生を目指す取組み
3.自治的な営み
山村に必要なこと、自分たちのためにやる。
4.田舎が都市を助ける
田舎は宝の山。私は田舎に住み働くようになって感情が豊かになった。
現在、自殺者が年間3万人もいる。企業での働き方もひどい。能力のすべてを注ぎ込むので、心の病を抱えるひとも多い。これからは、田舎が都市を助ける時代。
千年持続可能な社会を目指す「千年センター」をつくった。新エネルギーや里山耕、交流居住などに取り組む。新エネルギーといっても、バイオマスなどスローなもの。交流居住はまちとめる山を往復しながら住むということ。
今後、持続可能な社会をつくっていくために天竜区が果たす役割は大きい。浜松市は合併して上下流が一体となり、やれる条件がある。
A1 山村には人がいないので主体になりようがないのでは
Q2 ひとつの地域だけで解決できないのであれば、春野が水窪を手伝うとか、助け合うこと。
【15:50 今後について 多利野冒険学校代表 小粥康正】
講師へのお礼。指導者養成講座の告知、キャンプについて。指導者養成講座はCONEの資格を得ることができる。手をあげた地域でキャンプを行うことなど。
【16:00 あいさつ 天竜区地域振興課 課長 佐藤氏】
昔はガキ大将集団で遊んでいた。行政としても協力していきたい。取り組みへ協力の依頼など。
詳しくは
ココをクリック